2D NANDにおける微細化が限界に達しつつあることから、NAND業界は数年前より3Dに取り組んできました。この取り組みによって所定のシリコン面積当たりのビット密度とギガバイト容量が増加したことで、フラッシュメモリー産業はムーアの法則を維持できると期待されています(図1参照)。3D NANDは高密度なだけでなく、2Dよりも優れたパフォーマンス、信頼性、省電力をもたらすことが期待されます。さらにこれらの機能の向上によって、3D NANDは既存アプリケーションを改善し、新たなアプリケーションを可能にします。この記事では2D NANDと3D NANDの相違を検証し、3Dが適切とされるさまざまな事例やアプリケーションについて説明します。(重要なことですが、2D NANDも独自の属性を持つ成熟したテクノロジであり、当面は3D NANDと共存しながら、各種アプリケーションをサポートすると予想されます。)

図1:3D NANDがムーアの法則を継続(出典:サンディスク、Flash Memory Summit講演 、2015年 )

2D平面型NANDの限界

パターニングの課題

パターニングとは、光を使用して幾何学パターンをマスクからチップ上のフォトレジストに転写し、最終的に電子回路を製造するフォトリソグラフィ工程です。現行のリソグラフィ装置では必要とされる微細な幾何学パターンを描ける光波長を生成できないため、コストのかかる反復的なパターニング手順が採用されています。例えば、15ナノメートル(nm)のセルでは4倍のパターニングが必要であり、コストと複雑性が増加します。性能の高い短波長光装置はまだ量産用に出回っていないため、15nm未満のクラスにおける加工コストと信頼性が課題になります。3D NANDは、後述するように、適切な数の層を選択することができ、よりコスト効果に優れた設計になっています。

セル間干渉

継続的な微細化における技術的課題は、1つのセルの電荷が隣接するセルに影響してセル間干渉(つまり近接効果)が生じ、エラーやデータ破損を引き起こす可能性があることです。セルが15nm未満であると干渉の可能性が高まるため、セルの信頼性が低下します。

3D NANDメモリー技術

3D NAND技術は水平的にセルを微細化するのではなく、垂直的なNANDストリング構造にセルを積層することで、高密度を実現しています。こうすることで、より小さな面積でより高いビット密度が実現され、リソグラフィによるパターニングの限界が排除されます。

層の追加により容量を増加

近い将来、3Dでは、48層のメモリーセルがシリンダー状チャネル経由で垂直NANDストリング構造に接続されるようになります(図2参照)。さらに開発を続けることで、数年内に層数は100を超え、容量と密度は劇的に増加する可能性があります。こうした構造によってコストのかかる反復的なパターニング手順が簡易化されますが、一方で、垂直構造によるそのほかの課題が生じてしまいます。

図2:高さは新たな小型化(出典:サンディスク、Flash Memory Summit講演 、2015年

電荷捕獲材

サンディスクをはじめ数社のフラッシュメーカーが、2D NANDに使用される導電性の浮遊ゲート(FG)ではなく電荷捕獲層(CTL)を採用しています。CTLは絶縁体となる非導電層であり、メモリーセルのそのほかの特性と並んでセル間干渉を軽減するように設計されており、エラー数を低減して信頼性をさらに高めます。図3はCTLメモリーセルの図解です。 また電荷捕獲層の非導電特性によって、パターニング製造工程における複雑性を緩和することも可能になります。

図 3:サンディスクのメモリーセル(出典:サンディスク、Flash Memory Summit 講演 、2015年)

セル間干渉(近接効果)低減による耐久性向上

NANDフラッシュメモリーチップのプログラム/消去サイクル数(つまり耐久性)は、メモリーセルに蓄積された電荷が生成する電界の影響を受けます。電界が強いと隣接するセル間に干渉が発生しやすくなり、ひいてはチップの耐久性が低下します。3D NANDの電荷捕獲材は、設計ルールの緩和(セルの最小加工寸法が大きいこと)によって、より大きなセルにより多くの電子を蓄積することが可能となり、最適化された円形セルの設計などとともに、プログラム/消去サイクル数を改善し、より長期にわたってより多くの書き込みテラバイト数(TBW : Total Bite Written)を可能にします。

よりシンプルなプログラムアルゴリズムによるパフォーマンスの高速化

NANDフラッシュのプログラミング速度は、データを書き込むプログラムアルゴリズムの複雑性の影響を受けます。2D平面型NANDフラッシュは、セル間干渉によって生じるエラーを回避するために、極めて厳密で複雑なプログラムアルゴリズム群を必要とします。これらの複雑なアルゴリズムによってデータの書き込みに余計に時間がかかることになり、結果として速度が低下します。3D NANDテクノロジはセル間干渉による影響を受けにくいため、データの書き込みが大幅に高速化され、結果としてパフォーマンスが向上します。

より簡易なプログラミング操作による省電力化

セル間干渉の影響を和らげるために、従来の2D平面型NANDフラッシュはより多くのプログラミング手順を実行する必要があり、そのために電力消費が増加します。3D NANDテクノロジでは干渉の低減によってプログラミング手順数がかなり減少しており、そのおかげでそのほかの改良点とともに電力消費を大幅に抑えられます。

市場と用途

さまざまなアプリケーションのパフォーマンス、電力、信頼性、ストレージ容量の要件を検証したところ、3D NANDは、特に画像処理やリムーバブルメモリー、エンタプライズおよびクライアントSSD、モバイル機器の組み込みメモリーなどで、より優れた選択肢であることが判明しました。

画像処理アプリケーションにおいて、監視カメラ(継続的録画)に使用されるフラッシュメモリーは、膨大なデータを高い耐久性で保存するためにメモリー容量を大きくする必要があります。例えば、監視塔の先端に設置されたフラッシュデバイスの故障は不便な中断を引き起こし、結果として高額な修理を招きかねません。したがって、こうしたシステムは優れた信頼性を提供することが重要です。今日市販されている各種のプロ仕様のアクションカメラも、高パフォーマンスと大容量が求められるもう1つの例です。

ソリッドステートドライブ(SSD)には大容量、高パフォーマンス、高耐久性が必要ですが、そのような要件の比較的厳しいユースケースにも、3D NANDが優れたソリューションになるでしょう。

スマートフォン、タブレット、ファブレットなどのモバイルデバイスでは、高パフォーマンス、小型フォームファクタ、省電力、高耐久性が求められますが、いずれもユーザーエクスペリエンスの向上が要因としてあります。そこにはビデオや写真の数および解像度の増加、コア数や新しいOSに起因するプロセシングの向上、RAM/フラッシュの切り替え、起動時の高速シーケンシャルリード、サイドローディング時の高速シーケンシャルライトをはじめ、さまざまな理由があります。特にタブレットやファブレットでは、必要とされるストレージ容量が極めて低コストのままで、増加の一途をたどっています。またAndroidの最新バージョンであるMarshmallowでは、外部メモリーカードがアプリケーション実行用のストレージとして機能できるため、高パフォーマンスなメモリーカードの新たな促進要因になっています。

コネクテッドホームシステムは、タイムシフトバッファ(TSB)、ビデオキャッシュ、コンテンツ先読み、データストレージ、アプリケーションなどの機能をサポートするために、大容量メモリーと高耐久性が必要です。これらのシステムは5~7年という長期耐用向けに設計されるため、高い信頼性が求められます。

自動車業界では、フラッシュメモリーが次第にインフォテイメント、コネクテッドカー、自律走行、運転者支援に対して大きな役割を果たすようになっています。こうしたサブシステム上の多くのセンサーによって大量のデータが継続的に収集・処理されますが、そうしたデータは多様な温度下で高い信頼性を維持する必要があり、また集積される場合には大容量が必要になります。

UFSやPCIeのようなインターフェイスは、改善されたフラッシュ機能の利点をより適切に生かせるように、高速データスピードと並列実行をサポートします。こうした機能によって、待機系の階層ストレージの置換えや、大規模な分散エンタプライズストレージのような新しいアプリケーションも可能になります。

まとめ

D NANDには数世代にわたるコスト削減の継続が予想されており、また機能面における改善も相まって、いずれ比較的厳しい要件においての優先的な選択肢になります。高いビット密度により、3D NANDが2Dよりもコスト面で有利であることは、大容量ストレージが必要とされる場合に、より明白になります。

2Dも、依然として広範なアプリケーションに対応しており、今後数年間は世界中の製造工場の生産量にかなりの割合を占め続けるため、3Dと2Dの共存が予想されます。

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アヴィ・クラインは、イスラエルのサンディスク  においてデバイスチームを管理する上級主任デバイスエンジニアです。この役職において、モバイル市場特有のニーズにかかわるフラッシュメモリーの調査研究、特性評価、適格性評価を行っています。半導体業界で30年以上の経験を有します。メールアドレス:Avi.Klein@SanDisk.com.

本記事に掲載された見解は筆者のものであり、サンディスクの見解であるとは限りません。